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INTERVIEW - VOL.21 テキスタイルデザイナー 氷室友里

テキスタイルデザイナー 氷室友里 Yuri Himuro
カッシーナ・イクスシー2017年のクリスマステーマは「A TOUCH OF CHRISTMAS」。
新進気鋭のテキスタイルデザイナー氷室友里さんのインスタレーションが、青山本店のエントランスを彩っています。
織の組織作りから自身でデザインするユニークなテキスタイルは、ユーザーがハサミを入れることで完成させるなど、新しい発見と楽しい工夫がたっぷりと詰まっていて、今までにない「布との関係性」を築くことができます。11月16日から12月25日まで展開しているインスタレーションへの思い、期間限定アイテムについてなど、氷室友里さんにお話をうかがいました。

「空間の中で始まる、人と布との新しい関係性」

青山本店のエントランスで展開している「A TOUCH OF CHRISTMAS」のインスタレーションは、どのようなイメージから発想、構成をしたのですか?
今回のお話をいただいたときに、青山本店のすぐ近くにあるイチョウの並木道がパッと思い浮かび、そこからイマジネーションを得て、布の木の並木道をテーマにしたインスタレーションに取り組みました。
150cm×150cmの大きな布2枚を重ねて吊るし1本の木に見立て、それを並木道のようにレイアウトし、エントランスから奥へ進むと雪景色に変わっていく様子を表現しています。私自身、並木道をゆっくりと散歩することが大好きで、木々に囲まれているという安心感、心地よさ、わくわくした気持ちなどを、ゲストの方たちに感じていただけるような空間を目指しました。
インスタレーションに使っている布『snip-snap』の新作について、その特徴を教えてください。
布と人との関係性には、たたむ、まとう、縫うなどいろいろなアクションがありますが、使い手が布の表面にハサミを入れて柄を完成させるというのが、『snip-snap』の特徴で、2013年に発表しました。
今回、カッシーナ・イクスシーのクリスマス用オリジナルアイテムのために、「MOMINOKI」「SHIRAKABA」「HIIRAGI」の3種類各2色を新しくデザインし、インスタレーションとプロダクトに使っています。
表面にハサミを入れるというとみなさん驚かれるのですが、『snip-snap』は5色の糸で織り込んだ二重構造になっていて、表面の少し浮いている糸をカットすると柄が出てくるという仕掛けをほどこしています。新作では、糸をカットすると隠れていた動物が現れるデザインになっています。また、切り方によって内側の布色の出方が変わるので、布の表情は無限大。人との関わりの中でデザインが完成するというコンセプトは、この新作でも変わりありません。
今回のインスタレーションでは、氷室さんがあらかじめハサミを入れた布に、
来店されたゲストの方も布にハサミを入れることができるそうですが、そこにはどのような意図があるのでしょうか?
エントランスやウィンドウ近くの布には少し大胆にハサミを入れ、オーナメントのような華やかさを表現しています。そして、並木道を奥に進むにつれ、隠れていた動物が顔を出す、雪の中を駆け抜けている動物が現れるなどをカットで表現しているので、じっくりと見ながらディテールを楽しんでいただけるように配慮しました。
でも、これは完成形ではなく物語のプロローグに過ぎません。ゲストの方に実際にハサミを入れていただき、それぞれの物語を紡いでいっていただきたいと思っています。みなさんと一緒にクリエイションすることに興味があるので、クリスマスまでに、どんな並木道に変化していくのかとても楽しみです。
そもそも、氷室さんがこのような新しいスタイルのテキスタイルをデザインするようになったきっかけ、原点はどこにあるのでしょうか?
大学院生のときにフィンランドへ留学をして、ジャカード織りの勉強をしました。ちょうど季節が冬で、そのほとんどを家の中で過ごしていたのですが、フィンランドの方たちは、テキスタイル使いがとても上手。布を暮らしに取り入れ、その心地よさや華やかさを、当たり前のこととして楽しんでいました。
そんな経験から、人と布との関係性に興味を持つようになり、そこに「ひと手間を加える」という、日本人が昔から持っている優れた感覚を取り入れることができないだろうかと、試行錯誤しながらデザインをしました。日本に戻って岐阜県に優れた技術を持つ工場とご縁をいただき、デザインと布の設計を伝え、この形にたどり着きました。
インスタレーションで使っているテキスタイルを用いたオリジナルアイテムの中で、特にお気に入りがあれば教えてください。
もちろん、どれもおすすめで気に入っているのですが(笑)、強いていえば、自分で布を切って楽しむことができるクッションやファブリックボードでしょうか。ハサミを入れて自分らしい柄を完成させてプレゼントしてもいいし、大切な人と一緒にカットするのも楽しいですよね。共に創り上げるという時間を共有する幸せを感じていただければ本望です。
インスタレーションで使用している布と同じものでプロダクトを制作しているので、ぜひ青山本店までお運びいただき、実際に布をハサミで切って試して、その感覚をお楽しみください。
インスタレーション「A TOUCH OF CHRISTMAS」の見どころ、楽しみどころ、メッセージなどあればお願いします。
このような大きな空間でのインスタレーションは初めてで、とても楽しく学び多い経験となりました。
人との関わりの中でどのように布が変化していくのか、人の存在を常に意識してデザインをしたので、このインスタレーションの表情が刻々と変わっていく様子を見るのが楽しみ。みなさまにも、テキスタイルの可能性が無限であることを少しでも体感していただけるのではないかと思っています。

布に触れ、揺らぎのある心地よさを感じ、大きな空間の中で小さな世界の物語を紡ぐという、今までに感じたことのない楽しさを、ぜひ存分に味わっていただければうれしいです。
氷室 友里YURI HIMURO テキスタイルデザイナー
1989 年生まれ。
2013 年多摩美術大学大学院テキスタイルデザイン領域修了。
在学中にフィンランドのアアルト大学に交換留学し、ジャカー ド織を学ぶ。2016 年秋に独立。
人と布との関わりの中に驚きや楽しさをもたらすことをテーマにデザインを行う。
遊び心溢れるオリジナル テキスタイル開発のほか、様々な企業へデザイン提供を行うなど、活動の幅を広げている。
2017年4月ミラノサローネサテリテに出展。
雑誌dwell Young Guns 2017受賞。
IFFT Young Designer Award 2017受賞。