五感を刺激し創造性をもたらす
オフィス空間(後編)
丸紅株式会社様 新社屋プロジェクト
いまオフィスは大きく変わろうとしています。求められているのは、新たな価値や創造をもたらす非オフィス的な空間。
2021年5月、東京・大手町に完成した丸紅株式会社(以下、丸紅)の新社屋において、9階から20階にわたる執務フロアの「Round」スペースの設計デザインとコーディネートをカッシーナ・イクスシーが担当。丸紅 新社屋プロジェクト課の担当者にも話をお聞きしながら、デザイン性に富んだ新たなオフィス空間のあり方を前後編でレポートします。
※この取材は感染予防対策を徹底して行いました。
居心地の良さは人によって異なり、その時の気分によっても変わるものです。完成した3つの「Round」スペースは「Morning Fresh」「Magic Hour」「Midnight Meditation」をテーマとし、多様な居場所が点在。社員一人ひとりが仕事の内容や気分に合わせて居心地のよい場所を選べるようになっており、五感を刺激するさまざまな仕掛けも散りばめられています。
Morning Fresh
爽やかな早朝の自然に包まれて
「Morning Fresh」は植物があふれ、まるで自然の中にいるかのようなスペース。グリーンやグレージュといった優しいカラースキームを基調とし、フローリングや腰壁などには木材をふんだんに取り入れてナチュラルな雰囲気を演出。大開口から差し込む自然光を受けた植物がキラキラと輝き、爽やかな早朝のようです。リラックス感を漂わせながらも、自然が生み出すおおらかな刺激がアイデアの創出を促してくれます。
中心に据えられている有機的なテーブルに合わせたのは、ロープが編み込まれたアウトドアチェア「DINE OUT」。抜け感のある軽やかなデザインが「Morning Fresh」のテーマにぴったりです。大きなテーブルで仕事をしていても、中央に配した植物がほどよく視界を遮ってくれるので集中できます。
穏やかに流れるBGMは鳥のさえずり。立体的に配置された植物が窓の外に広がる皇居の自然とゆるやかにリンクし、イエローグリーンをアクセントしたカーペットは草原のよう。ソファや丸テーブルを配した窓辺のスペースなら、気持ちよく1日を始められそうです。
Magic Hour
温かな時が流れる夕暮れ時
「Magic Hour」とは夕暮れから黄昏時、空がドラマチックに変化する数十分ほどの時間帯のこと。まさにこの空間も、夕陽を想起させる赤やオレンジのファブリック、ふんわりとテーブルを照らすペンダントライトなど、マジックアワーの温かな時間を表現したもの。
中央にアイランド状に組み合わせたソファ「BIRD」は、ラウンジチェアやローテーブルを合わせて、思い思いに過ごせる場所に。低く吊るしたペンダントライトが柔らかな光を落とし、落ち着いた雰囲気を醸しています。
窓側にさりげなく配したのはシャルロット・ペリアンがデザインしたテーブル「VENTAGLIO」。不整形でアイコニックなデザインは、多方向から自由な使い方が可能です。大村さんは、このテーブルで外の景色を眺めながら仕事をするのがお気に入り。「静かに流れる都会の雑踏のBGMと車が走る外の景色がリンクし、ビルの中なのですが、都心のテラスで仕事をしているような心地よさがあります」。
中池さんのお気に入りは、窓辺にあるソファ「BEAM SOFA SYSTEM」。「仕事には緩急が大事。合間にリラックスした時間をつくることで、心身共にリフレッシュされます」。
空間の家具や素材を決めることに慣れていない一般の方にとって、図面やパースだけで内容を決めていくことは難しいと感じられることも。その点、今回のプロジェクトは非常に決めやすかったと中池さんは言います。「カタログではなく、ショールームで実際に家具を見ることができるので決めやすく、決めたものはその場で在庫を押さえていけるスピーディーさは小売業もしっかり展開されている会社ならでは。実際に使うカーペットやフローリング材をカッシーナ・イクスシーさんのショール―ムに持ち込み、家具と合わせながら確認できたことも、調和のとれた空間をつくることができた理由の一つだと思います」。
独自のプロセスによって、限られた予算内でメリハリをつけながら空間全体をトータルコーディネートすることで、テーマ性のある世界観をつくり出すことができました。
Midnight Meditation
緩和と緊張が同居する光の演出
「Midnight Meditation」は明暗の光の演出とシンメトリーなレイアウト、ダークトーンを基調としたインテリアが、和の静謐さを感じさせるデザインです。グレーのガラスで仕切られた中央の空間は、まるで小宇宙のよう。開口に向かって長さ7mにもわたるダイナミックなテーブルが象徴的に配されています。大成建設の基本計画を基にして天井を黒く塗って照明を絞ることで、余計なものを視界に入れることなく集中を促し、静かな刺激は頭の中を整理させ、冷静な思考をもたらしてくれます。夜になると窓外に広がる都心の夜景や夜空と調和し、室内外が一体となったような不思議な感覚です。
ガラスパーテーションの外側にはボックス型や1on1ミーティングの場など、さまざまなコミュニケーションの場が用意され、明暗のコントラストによって意識も切り替わります。
「Round」スペースに隣接するパントリーには、カッシーナ・イクスシーのグループ会社が取り扱う、ドイツ・ジーマテックのキャビネット型キッチンを採用。同ブランドのキッチンはデザイン性だけでなく、耐久性や機能性にも定評があります。中池さんはジーマテックのキッチンを選んだ理由についてこう話します。「造作も考えましたが、オフィスのキッチンはハードな使用に耐えうるもの、長く使えるものでなければ厳しい。耐久性の高い既製品があるのであれば、それを採用しない手はありません」。
「移転したばかりですが、社員からは新オフィスを評価する声も聞こえてきています。計画当初はオフィスに行くことが当たり前でしたが、働き方が大きく変わったいま、行きたくなるような居心地のいいオフィスであることが大事だと考えています。カッシーナ・イクスシーさんが景色を生かしつつ、心地よい「Round」スペースをつくってくださったので、ここをしっかりと社員に活用してもらいたいなと思っています」と大村さん。
中池さんも、「オフィスはつくってからが始まりです。課題が出たときは少しずつ改善しながら、社員が成長していくためのオフィスにしていきたいですね」。
コロナ禍で働き方が大きく変化している最中でのプロジェクトでしたが、家具のセレクトやレイアウトを工夫しながら、使う人の心地よさを一番に考えたからこそ、新型コロナウイルス感染症の流行が落ち着いた後も色あせることのない、タイムレスなデザインを実現しました。オフィスで本物の家具に触れることは、感性を刺激し、豊かな発想へと導いてくれるでしょう。
3つの異なるデザインスタイル、多彩な居場所が点在する空間は、幅広いアイテムを扱うカッシーナ・イクスシーだからこそ。イマジネーションをふくらませられる場所もあれば、ゆったりとくつろげる場所、集中できる場所もある。丸紅の新オフィスは、誰もが行きたくなる魅力にあふれていました。
編集/ライター:植本 絵美
「Round」設計:カッシーナ・イクスシー (デザイン協力:ツクルバ)
(前編はこちらから)
丸紅株式会社 担当者様のご紹介
新社屋プロジェクト課 課長 中池拓さん
新社屋プロジェクト課 大村遥さん
コントラクト事業部 について
オフィス、商業・公共施設、教育・文化施設、ホスピタリティ等、様々なプロジェクトで家具を含めたインテリアのご提案を行っています。専任のデザインチーム/プロジェクト担当者にてワークスタイル相談からデザイン提案、プロジェクトマネジメントまで、オフィス環境の向上をきめ細やかにサポートします。
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