MASTERPIECE IN DAILY LIFE

1927年にイタリアで創業し、モダンデザインの代名詞となる家具を数多く創造してきたカッシーナ。
中でも往年の巨匠たちによる歴史的名作を集めたのが「イ・マエストリ・コレクション」です。
時代を超えて愛されるデザインは、その背景に豊かな思想や物語があります。
日常の空間にあることでいっそう輝きを増す、そんなマスターピースをご紹介します。

vol.1ANTROPUSアントロプス ラウンジチェア
DESIGN : MARCO ZANUSO

ANTROPUS

イタリアの感性を極めた、個性あふれる姿。

マスターピースとされる家具には、ある色のイメージと結びついたものがしばしばある。1948年にマルコ・ザヌーゾがデザインした「アントロプス」は、赤く彩られた姿が思い浮かぶ椅子の代表的なものだろう。彼が以降に手がけた椅子「レディ」も、リチャード・サッパーと共同で取り組んだブリオンヴェガ製品の数々も、やはり赤系の色の印象が強い。明るく鮮やかで力強さにあふれる彼の創造性は、イタリアデザインそのものの象徴としてふさわしい。

MARCO ZANUSO 1916年生まれのザヌーゾは、多くの優秀なデザイナーが輩出しているミラノ工科大学建築科で学び、第二次大戦の直後から頭角を現した。イタリアデザインの黄金期を担った同世代のデザイナーたちの中でも、特に社会的な影響力の大きかった存在だ。アントロプスは、彼のキャリアにおける初期の代表作。発表当時は、従来のラウンジチェアのような天然素材ではなく、タイヤで有名なピレリが開発したラテックスフォームをクッション材に使った点が画期的だった。その手法は、1951年発表のレディにも受け継がれていく。なお現在のモデルでは、モールドポリウレタンとポリエステルパッディングを用いた構造へと改良されている。

ユニークなシルエットが目を引くアントロプスだが、独特の造形は理に適っている。ほどよい厚みのあるシートを、有機的な曲線をそなえたパネルが左右から挟み込む構造で、アーム部分にも適度なクッション性をもたせた。この側面のフォルムは、どこか動物の姿をかたどったようでも、カルダーの抽象彫刻のようでもある。こうした造形感覚もまた、ザヌーゾのデザインの多くに共通する魅力であり、イタリア人らしい豊かなセンスを感じさせる要素だ。1940年代は未来的だったに違いないが、現在においてはモダニズムに裏づけられた気品も漂う。

LADYレディ
LADY レディ
WOODLINEウッドライン
WOODLINE ウッドライン

アントロプスは、同じくザヌーゾが手がけた「レディ」や「ウッドライン」とともに、2015年から新たにカッシーナのイ・マエストリ・コレクションに加えられた。彼の個性が鮮明に発揮されながら、普遍の域へと辿り着いた姿は、ル・コルビュジエやフランク・ロイド・ライトといった巨匠たちの家具をラインアップするこのコレクションの中でもまったく遜色がない。