第二回目となる「WELCOME HOME Interview」にご登場いただくのは、料理家として数多くの書籍も出版されている渡辺有子さん。ご自身のワークスペースであるアトリエは、インテリア含め、あえて本来の趣味趣向とは異なる内装を意識されたのだとか。料理する環境のことだけを考え抜いた空間学。それは、部屋の大部分を占める、長い作業台兼テーブル作りから始まります。
「ON」のスイッチが入る理想的なワークスペース
YUKO WATANABE(COOKING EXPERT) 場所:アトリエ
"さまざまな角度から料理と向き合う"。そんな空間作りを意識してオープンさせたというアトリエ『FOOD FOR THOUGHT』。こちらでは、イベントや料理教室、レシピの研究など渡辺さんが考える食に対するメッセージを発信、交流の場ともなっています。夫であり写真家の五十嵐隆裕さんと壁一枚隔ててシェアしているこのスペースで、まず目に飛び込んでくるのが、窓に向かって直線的に伸びた大きな作業台。「内装は、ワンダーウォールの片山正通さんにお願いしました。五十嵐の作業スペースとなっている壁の向こう側と合わせて57平米ほどなのですが、片山さんは狭い空間を手掛けることに少し戸惑いながらも、楽しんでいる様子でした(笑)。その片山さんからの提案で、狭い中に大きなものをドカンと置いてしまおうと、大きな作業台兼テーブルを中央に配置することにしたんです。さすがにこれだけ長いものを運び入れるのは難しく、3分割にして納品されて、この場で組み立て。最後に研磨する職人さんが継ぎ目をなくして美しく仕上げてくれました。シンクのある壁際と中央の大きな二つの作業台は、ほとんど移動することなく料理ができますので、とっても使いやすいです。テーブルに合わせたスツールは、テキサスの職人さんにオーダーしたもの。あえて武骨なバースツールを選択しました。」
こちらのアトリエを作るにあたり注意したのは、あくまでも料理の作業場となる空間であるということ。「インテリアに関してはきっちりシンプルに、清潔感を心がけています。遊びになるようなものとか、毛足の長いものは置かず、何もない削ぎ落とした空間を意識しています。そういう意味では今までの自分のスタイルとは全然違うんです。もともと私は古い家具とか使い込まれたものが好きで。知人がここに来ると、この変わり様に皆驚きますね。アトリエと自宅との共通点はまったくないんですよ。自分ならこうはしなかったなって思う部分もすごく多くて。ここに扉があれば、ストックできるので扉を付けたいと言ったら、そこは床の延長で棚じゃないんです。って言われたり……。あれ、私のアトリエなのに希望が通らないぞ?って(笑)。そういう点も面白いですね。だからここに来ると完全に仕事のスイッチが入ります。あえて自分のテイストに染めずに、デザインして頂きました。自分たちでやろうと思えばこの狭さだったらある程度はできたと思うけれど、それはしちゃいけないって。ここは料理をするってことが一番の空間なので、内装もすっきりさせると決めていましたから。その中で少しずつ崩して行けばいいのかなって思っていたけれど、作ってみたら崩すものを置くスペースすらなかったですね(笑)。でも料理をするっていう意味では、この狭さ・この空間が最適で良かったなと思っています」
渡辺有子さんのインテリアを構築する4つの要素
「こちらのアートワークは、このアトリエをオープンする際、友人の山本祐布子さんに描いていただいたものです。額装は、リムアートの中島祐介さんです。玄関正面の壁面に掛けてあるのですが、正面向かって右側の空間が五十嵐のアトリエで、左側が私の『FOOD FOR THOUGHT』になっているので、それとリンクしたイラストを描いてもらいました」
- 渡辺 有子 YUKO WATANABE
-
料理家。雑誌の料理ページや広告などで活躍中。
その傍ら、多くの書籍も手掛けている。著書に「すっきりていねいに暮らすこと」「私の好きな料理道具と食材」(ともにPHP研究所)「365日。」(主婦と生活社)、「献立と段取り」(マイナビ)、「サンドイッチの時間」(マガジンハウス)などがある。
http://520fft.tumblr.com/