Charlotte Perriandが
現代にもたらしたもの

▲ photo credit:Le Corbusier and Charlotte Perriand, place Saint Sulpice apartment -studio,
1928 ©Ph. Pierre Jeanneret. Archives Charlotte Perriand ADAGP2022
2011年神奈川県立近代美術館・鎌倉から始まり国内を巡回した展覧会「シャルロット・ぺリアンと日本」や、2019年パリのフォンダシオン ルイ・ヴィトンで開催された大回顧展「Le Monde Nouveau de Charlotte Perriand(シャルロット・ペリアンの新世界)」により、建築・デザイン界以外にもその名を知られるようになった、シャルロット・ぺリアン。彼女は、20世紀初頭の10年間を席捲した前衛的な文化運動の担い手であり、家具デザインを通じて日常生活の中にモダンな感性を生み出し人々の美的価値観にも大きな変化をもたらしました。世の中に対して新たな生活様式を提起し、インテリアの在り方やスタイリングに貢献した彼女の功績についてまだあまり広くは知られていませんが、今なお我々のライフスタイルの中核となっていることは紛れもない事実です。
ぺリアンがプロとしてのキャリアを歩み始めて間もなく、1927年Salon d’Automne(サロン・ドートンヌ)で発表した<Bar under the roof(屋根裏のバー)>は、数多くの賞賛を浴びました。そして同年、若干24歳にして、彼女はパリのセーヴル街35番地にあった有名なデザイン事務所で、ル・コルビュジエ、ピエール・ジャンヌレとの10年に渡る協働をスタートさせます。

▲ Photo credit:Salon d’Automne, 1929, Equipement Interieur d’une Habitation présentation
©Archives Charlotte Perriand, ADAGP2022
パリのグラン・パレで毎年開かれるSalon d’Automne(サロン・ドートンヌ)は、今から90 年以上前の1929 年、ル・コルビュジエ、ピエール・ジャンヌレ、シャルロット・ペリアンが<Equipement intérieur d’une habitation(住宅のインテリア設備)>を発表した記念すべき展示会でした。 今でこそカッシーナが製造販売を行っているアイコン的な金属製チューブの家具ではありますが、当時3 人が初めて公の場に装飾的要素を排除したミニマルなこの作品を発表した際には、その奇抜なスタイルゆえ多くの物議をかもしました。 <Casiers(カジエ)>として知られる金属製キャビネットは、リビング、キッチン、ベッドルーム、浴室などの空間を縁取る役割を果たしながら、同時に多機能な収納としての役割をも果たしています。
流れるような空間表現を特徴とするこのモダンな住居は、後にカッシーナのル・コルビュジエ、ピエール・ジャンヌレ、シャルロット・ぺリアンコレクションの中核となる1 FAUTEUIL DOSSIER BASCULANT、
2 FAUTEUIL GRAND CONFORT, PETIT MODELE、3 FAUTEUIL GRAND CONFORT, GRAND MODELE、
4 CHAISE LONGUE A REGLAGE CONTINU、6 TABLE TUBE D’AVION、
7 FAUTEUIL TOURNANTなどに彩られているのが見てとれます。
ル・コルビュジエ、ピエール・ジャンヌレとデザインした家具の中には明らかに彼女の存在が見てとれます。シャルロット・ペリアンは、ル・コルビュジエのしばしば冷淡な合理主義とは対照的に人間的な側面を作品に与え、彼らが推進した改革プロジェクトの根幹を担っていました。創作活動において、彼女は日常的かつ素朴なモノやコトに命を吹き込み、新たな価値を創出していたのです。この時代、彼女の新しい素材を発見し利用する才能やインスピレーションが存分に花開いたと言えます。
Photo credit:Research sketches
by Charlotte Perriand of the Fauteuil Grand Confort, 1928
©Archives Charlotte Perriand, ADAGP2022 ▶︎


▲Photo credit: “Sélection, Tradition, Création” Exhibition , Charlotte Perriand, 1941,
Tokyo© Archives Charlotte Perriand ADAGP2022

▲Photo credit:Charlotte Perriand and Japanese craftsmen, Japan 1940
© Archives Charlotte Perriand ADAGP2022
娘でありシャルロット・ぺリアン・アーカイブの代表、ペルネット・ぺリアン・バルザックは、自身の母のデザインポリシーについてこう話します。
「母はいわゆるデザイナーではなく、建築家としての観点からデザインをしていました。建築的な空間やボリューム、各空間の織り成すバランス、全体的なハーモニー。あらゆる家具は住まうためのニーズを満たすものであり、人の動作や体のポーズに呼応し、手で触れたときの感触、あるいは可動性や機能性を充足するものとして捉えていたのです。フォルム(かたち)はとかく技術・素材・経済性・生産場所等に縛られます。しかしシャルロット・ペリアンのフォルムはムーヴメント(動き)に特徴付けられているのです。1920年~1930年の間、初めて、スタッキング、組み合せ型、並置型、折りたたみ式、エクステンション型そしてマルチファンクションの家具をデザインしたのがシャルロットでした。」

2004年、カッシーナはシャルロット・ペリアンの唯一の意匠継承者であり20年間アシスタントを務めていたペルネット・ぺリアン・バルザックの協力のもと、ペリアンの手がけた多面的な仕事の広範かつ完全なビジョンを提供することを目的とし、シャルロット・ペリアンのコレクションを発表しました。
多様性が求められるこの時代に、丸や四角といった固定観念に縛られず自由なフォルムを採用したテーブルなど、ぺリアンの柔軟な発想から生まれたコレクションは改めてその存在価値を高めています。彼女自身が自然をこよなく愛し、自然素材を多用していたというところもまた、今の時代の共感を集めているポイントかもしれません。彼女が提案してきた作品は単なる道具としてではなく豊かな暮らしの一部として、現代そしてこれから先のライフスタイルや価値観にもフィットし、世代を超えていつまでも寄り添ってくれることでしょう。
(2022.3)

▲ photo credits : © DePasquale + Maffini
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