縄文土器 山梨県 ¥580,000(税抜)
花とうつわ -和のしつらえ-
床の間に飾られた一輪の花。けっしてゴージャスではないけれど質素で美しい季節の花が、陰影のある和の空間にそこはかとない彩りを添えてくれます。あるいは、自然と背筋がスッと伸びるような凛とした花の佇まいが、気持ちのよい緊張感を客間に届けてくれるということもあるでしょう。花一輪で、空間の表情はがらりと変わります。
今回、築70年以上の日本家屋で草花を生けてくれたのは、花道家の上野雄次さん。エネルギッシュな「花生け」ライブパフォーマーとしても知られる上野さんが、静寂な和の空間で草花とうつわと向き合う姿勢は、真剣そのもの。研ぎ澄まされた集中力が、まさに「今ここ」の奥深くまで突き刺さっているかのように見受けられました。
「花道とは、生き方そのもの。花を生けることを通して哲学をしている、求道しているのです」
花道とは、自分の道を見つけるという個人的な行為であると同時に、その背景にある日本の伝統文化を継承し、敬う行為でもあると話す上野さん。
「花道家はある意味、伝統を現代に再現する研究者のようなもの。花道の世界の“今”を形にしながら、この時代に花を生けることで、見る人の心を揺さぶる鮮烈な印象を与えたいと思っています」
「シンプルに、やや生真面目に、「しっかりと立つ」というイメージで生けてみました。なぜなら、日常の生活にちょっとした緊張感やスマートさを与えたかったから。カッシーナ・イクスシーが扱っているプロダクトは、ダラけた日常とはマッチしないでしょ?」
うつわを起点に、要素を最小限に抑えてバランスをとり、空間と時間とうつわと花のすべてを統合し、シンプルな美しさを表現してくれた上野さん。そこには、なんの躊躇もありません。
「迷いが見えてしまうのは野暮というもの。迷いがないものはモダンに見えます。そしてモダンであるということは、スマートであるということです」
その道を歩き続けている上野さんのように「迷いなく花を生ける」という域に達することができなくても、日常生活に「花を生ける」ことを取り入れてみたい、でもどうしたらいいのか分からない……。上野さんの作品を見て、そう感じた人も多いのではないでしょうか。
「毎日、服を選んで着るときと同じセンスで大丈夫。『今日はこのトップスを着たいな』と思う起点が決まれば、あとはそれに合わせて、デザインや色や素材、小物を組み合わせて、コーディネートしていきますよね。もし、うつわありきなら、どこに置くのか、素材は何か、色合わせはどうしようかと、コーディネートしていけばいい。その経験を積み重ねていくうちに、自分の好みの方向性も見えてくるはずです」
硝子器
瀬沼 健太郎
¥50,000(税抜)
「硝子だけれど、伝統的な青磁や白磁の瓶型をしている、立ち姿がとても美しいうつわだと感じました。
そのまっすぐ上へと伸びていくベクトルを受け取る花に選んだのが昼顔です。すりガラスのような見え方をする硝子と一輪の小さな昼顔が、控えめな情緒を表現。向かって右側から光が差し込んでいる空間だったので、光のほうに昼顔のつるが流れるようにしたのもポイントのひとつ。本来植物が持っている“光に向かう”という習性を生かすことで、草花をより生き生きと見せることができます」
骨董
(常滑焼 鎌倉時代)
¥500,000(税抜)
「口の部分がいい具合に割れているなと思いました。割れているうつわには、花が“入っていきやすい“のです。入るとは、バイブレーションが合っていくという意味。情緒が合うと言ってもいいでしょう。
そこで、20cmほどの大輪である葵(アメリカ芙蓉)を合わせてみました。釉薬の青緑色と花の赤い色も補色で調和しています。また、花で欠けを埋めることで形がピッタリと合い、うつわのころんとしたフォルムを再現。形が合うというのは、異なる素材を合わせるときの大事な要素のひとつです」
陶芸(黒銀彩の器)
西川 聡
¥30,000(税抜)
「三角形のテーブルと背景の絵画、そして西川聡さんのうつわ。全体のバランスと色合わせを考えて、白いバラを選びました。三角形のテーブルの頂点が手前にレイアウトされていたので、ベクトルが前に向かうように、うつわの正面を決めました。
西川さんのうつわに花を生ける機会がたまにあるのですが、彼のうつわには“途上にある”魅力を感じます。なので、あえて枯れた花という要素を組み合わせることで、独特の世界観を表現してみようと思いました」
漆器
杉田 明彦
ココナッツボール(左)¥12,000(税抜)
木地鉄鉢(錫仕上)小¥24,000(税抜)大¥40,000(税抜)
「床の間の飾りである違い棚に、4点の漆器。横に並んでいくというリズムを壊したくなかったのと、うつわそれぞれの微妙な個性を引き出しながらも関係性を繋ぎたかったので、オニユリを横に置きました。まともに生けていません。
向かって左からふたつ目のうつわには石を入れたり、生けている最中に散った花びらをそのままにしておいたり。それぞれのうつわと花との関係性、アプローチを変えました。けれども、全体としては繋がっている。花は役者で僕は演出家、空間は舞台そのもの。そんな仕上がりになっています」
- 花道家
上野 雄次 Yuji Ueno - 1967年 京都府生まれ 鹿児島県出身。東京都在住。
1988年 勅使河原宏の前衛的な「いけばな」作品に出会い華道を学び始める。
国内展覧会での作品発表の他、バリ島、火災跡地など野外での創作活動、
イベントの美術なども手掛ける。
2005年〜「はないけ」のライブ・パフォーマンスを開始。
地脈を読み取りモノと花材を選び抜いて活けることで独自な「はないけ」の世界を築き続けている。
創造と破壊を繰り返すその予測不可能な展開は、各分野から熱烈な支持を得ている。
詩人、写真家、ミュージシャン、工芸家等とのコラボレーションも多数行っている。